† 初めて殴った拳は思ったよりも痛くて重かった †










「・・・うわぁー見事なまでの修羅場」




よし、見なかったことにしよう。

金髪男が綺麗なお姉さんに叩かれた姿なんて。

・・・折角綺麗な顔なのに。




















◇◇◇



















「・・・はい。これで冷やせば?」


「・・・


「折角綺麗な顔なんだから腫れたら勿体無い」


「ははっ・・・サンキュ」




ベンチに座り込んでる俺の頭上から聞こえる声。

その声の主の手には濡れたハンカチ。




「どーしたの?あの修羅場・・・て、ごめん。通りかかって思わず見ちゃった」


「ホント、どーしちまったんだろーな・・・」




探してる、何か。

誰といても、何をしてても、考えちまうこと。




「・・・てか、多分、お前のせい」


「は?!・・・んっ?!」




疑問符を浮かべたの腕を掴んで引き寄せて・・・

唇を奪ってた。




「んっ・・・んーんーんーっ?!」




の唇を何度も口付けた。

それこそ、貪るように。

足りない何かを、探している何かを、見つけるように。

何度も、何度も・・・




「・・・な、何すんのよ!!!」




一瞬、唇が放れた瞬間に叫ばれたのは今の言葉。




「・・・・・・ごめん」


「それは、恋人に言いなよね!!!」




その言葉と同時に、叩かれたのは痛みの引いた頬の反対。




「痛ってぇ・・・」


「今のでなかったことにしてあげるから」




さっき、元恋人に叩かれたときよりも・・・

今、に叩かれたほうが痛いなんて、な。

頬じゃなくて、心が。




「じゃあね」


「あっ・・・」




追いかけたい。

でも、追いかけられない。

・・・・・・足は追いかけようとしている。

でも、俺の心がそれを止める。

俺は無気力にベンチに座り込むしかなかった。




















◇◇◇




















「・・・なんなのよ、アイツ」




いきなりキスしてきた。

しかも、何回も何回も角度を変えて、息もできないようなそんなキス。




「・・・あぁーもう、嫌」




何よりも、自分が。

アイツのキスが嫌じゃなかった、だなんて。

もっと、って求めてしまいそうになった、だなんて。

・・・アイツには恋人がいるのに。

綺麗で、私とは正反対のディーノと釣り合いの取れた恋人が。




「・・・・・・もう、帰ったよね」




・・・あぁーダメだなぁー・・・

この性格。

叩いて一瞬はよかったのに、今は後悔たっぷりで。

気になって、仕方がない。




「・・・自分が、納得するために見に行くんだから。・・・絶対もういないんだから」




そうだ。

ちょっと見に行って、それでディーノが帰ったことを確認して帰ろう。

そうしたら、大丈夫だから。

気になることもなくなるから。










† 初めて殴った拳は思ったよりも痛くて重かった †

(まさか、あの綺麗な顔を私まで殴ることになるとは・・・ね)



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