† 見たことのない自分の笑顔 †










「柳生って知っちょる?」


「柳生くんー?」


「俺のダブルスのパートナーなんじゃけど・・・」


「あっわかったー紳士くんだー」




有名なんね、柳生も。

さすが紳士じゃ。




「仁王くんのダブルスのパートナーだったんだー」


「そうじゃ」




ひとつ、気に入らないことがある。

名前の呼び方。




「なぁ・・・」


「んー?」


「名前」


「え?」


「呼び方」


「・・・・・・?」


って呼んでもよか?」




言ってしまった。

詐欺師とか女泣かせとか言われちょるこの俺が。




「わ、私ー?!」


「・・・サン以外に誰がおるん?」


「あっそっかー・・・あれ?って呼んでくれるんじゃなかったのー?」




何てサン言った。

ちょっと意地悪そうな笑顔つきで。







「んー?」





「んー??」







何度も呼んでみる。

という名前を。




「に、仁王くんー?」


「雅治」


「えー?」


「雅治って呼んで?」




自分から名前で呼ぶことを願うのは初めて。

大抵の女は付き合うと決まればすぐに名前で呼んでくる。

だから、自分からこんなことは言わない。




「雅治くんー?」


「そうじゃ」


「雅治くん、雅治くんー」


「・・・・・・」


「えへ、お返しー」




なんて無邪気に笑うの姿。

俺にはない無邪気さ。

出来ない笑顔。




















◇◇◇





















「柳」


「何だ?仁王」


「データない?」


「・・・・・・のか?」


「そうじゃ」




・・・・・・あの仁王がか。

ひとりの女にこんなに興味を持つなんてな・・・

なかなか面白いデータだ。




「そういうことは本人に自分で聞けばいいだろう?」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「そう簡単にいかんのじゃ」




まぁは自分のことを簡単に話すような女ではないからな・・・

多分、仁王と話すようになったのも最近。

最近話すようになった男に自分のことを話すとは到底思えない。




「仁王」


「・・・なんじゃ?」


「俺のデータに頼るよりも自分で歩み寄れ」


「・・・・・・意地悪じゃのぉー」


「その方がいいと思うぞ」


「・・・そうじゃね」


「まぁ・・・頑張れよ」


「サンキュ」










† 見たことのない自分の笑顔 †

(自分から名前呼ぶことになるなんて思わんかった。)



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