† 少し…ほんの少しだけ待って… †
「はい、ちゃん。ちゃんと渡したから」
「・・・ものみたいに言うなよ」
「ごめんごめん」
「・・・悪かったな、千石」
「いーって。たまたま通りかかっただけだし。・・・それに、俺も一応知ってる人間だしね」
「・・・そうだな」
「まぁ、何かあったら連絡頂戴。俺で役に立てるなら協力するし」
「・・・サンキュ」
跡部くんに彼女を託した。
大丈夫、大丈夫だ。
彼も・・・本当はわかってるんだ。
だから、俺は彼を頼りにした。
でも、
どうか、ちゃんが今は目を覚まさないで欲しい。
目を覚ますには早すぎる。
もう少し、
もう少し、
もう少しだけ・・・時間が欲しい。
ちゃんにも、
彼らにも、俺自身にも・・・
少しずつ、確実に進んでいかなければいけない。
「・・・もう少しだけ、目を覚まさないであげて」
時間はまだあるのだから。
無理に急ぐ必要はない。
急ぎすぎたら逆に、何も変わらないかもしれない。
むしろ、悪くなる一方かもしれない。
だからこそ、
ゆっくり、
ゆっくり、
ゆっくりでいいんだ。
だって、ちゃんは罪を犯したわけではないのだから。
◇◇◇
千石からを託された。
俺はどうして来た?
千石から言われたからか?
・・・いや、違う。
大切なんだ、本当に腕の中の愛しい存在が。
だが、今もしもが目を覚ましたらどうする?
を俺を見てどう思うだろうか?
何か言葉を発するだろうか。
わからない、
わからない、
わからない。
お前を傷つけてしまった俺を・・・拒絶するかもしれない。
「・・・今だけは目を覚まさないでくれ」
どうか今は目覚めないで欲しい。
今の俺には・・・まだ早すぎる。
もう少し、時間が欲しい。
そして、願わくば・・・お前にはまた、笑って欲しい。
◇◇◇
「侑士ー!跡部いないじゃん!どうしたんだよ?」
「・・・姫さん迎えに行った」
姫さんという言葉に全員が反応する。
・・・全員っていうのはオーバーやな。
でも、知ってる人間は全員、確かに反応した。
「・・・なんでだよ?!」
「千石から電話があってん。姫さん迎えに来てくれってな」
「・・・・・・」
俺は一人の人しか姫さんなんて呼ばへん。
だからこそ、知っているの人間全員の目が俺を向く。
もちろん、目の前にいる岳人も。
誰もが俺を見て、何も言葉を発せずにいる。
そりゃそうやな。
知ってる人間は知ってる、姫さんのことも。
「今日は誰も部活できそうにないなぁ・・・部室で跡部帰ってくんの待ってよか」
レギュラーを筆頭に誰も動こうとしない。
当然やな。
この状態で部活なんてできるはずもない。
「レギュラーと準レギュラー以外は解散。今日は部活なしや」
† 少し…ほんの少しだけ待って… †
(あーあ、練習なしになってしもたなぁ。こりゃ帰ってきた跡部に怒られるわ。)
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