† 流れ行く大量の血、動かない身体 †
「・・・これ以上は進ませないよ」
物事はそう簡単に、巧くいくはずなんてない。
みんな・・・彼を甘く見ていたのかもしれない。
みんながみんな、彼の姿を見て唖然としているから。
「景時!!」
九郎が叫ぶ。
名を。
彼の名を・・・
「兄上!」
そして、朔ちゃんも叫ぶ。
彼の立場を。
「・・・景時、やっぱり、立ちはだかるんだね」
私の言葉。
それは、あまりにも落ち着いていたようで・・・
「・・・さん?」
「どうしたの?望美ちゃん」
「どうして、そんなに・・・落ち着いているの?」
「ありえないことじゃなかったから」
景時は今、源氏の軍にいる。
最も、ゲーム通り平泉侵略のほうにいると思っていたのだけど。
それでも・・・鎌倉にいないという保証はなかった。
だから、ありえないことじゃない、この展開は。
おそらくこれは偶然じゃない、必然。
「!何を?!」
銃を構えた私に向かっての九郎の言葉。
「この銃、造ってくれたの景時だよね」
「・・・うん、そうだね」
「造ってくれた時はまさか、こんな展開になるとは思ってなかった?」
「・・・そうだね、もし思っていたとすれば・・・銃は造っていなかったかもしれないね」
いくら、君の願いでも、と景時は言う。
その表情は悲愴に満ちている。
「そっか・・・それならよかった」
「さん、何か考えがあるのですか・・・?」
「考え?そんなもの・・・ないよ」
だって、この運命は初めてのもの。
どうなるかなんて、一か八か。
私にだって、結末はわからない。
すべては・・・景時次第。
「!銃を仕舞え!!」
「九郎、手出ししないで」
「・・・・・・っ!!」
「クッ・・・面白い展開だな」
「残念だけど、知盛を混ぜてあげる気はないから」
「ほぉ・・・つれない姫君だ」
「兄上!さん!やめて!!」
「朔ちゃん、止めないで」
「・・・さん!?どうして・・・っ」
ごめんね、朔ちゃん。
あなたの大切なお兄さんに銃を向けて。
「ごめん・・・ね?」
「さん・・・」
「景時!私は・・・私たちはここを通らなくちゃいけないの」
「・・・そうだね、鎌倉殿に逢うための最短路はここだ・・・」
「遠回りしてる時間はないから」
「・・・・・・」
「だから、・・・私は万物の姫、!」
「俺は・・・戦奉行、梶原景時。鎌倉殿の命により・・・君たちを・・・殺す」
「行くよ、景時」
「手加減はしないよ・・・ちゃん」
そして、景時は今日、初めて私の名を呼んだ・・・
◇◇◇
繰り広げられるのは攻防戦。
私たちじゃない。
さんと景時さん。
二人だけの戦い。
「望美ちゃん!」
「な、なんですか?!」
「あのね、私・・・今から本気で景時の足止めするから」
「え?」
「だから・・・隙ができたら迷わずみんなを連れて頼朝のところへ行って」
それってどういう・・・?
まさか・・・!
「まさか、さん・・・!!」
「よろしくね、望美ちゃん」
「だめ!だめだよ・・・!」
「景時、これで最後だよ」
「・・・そうだね」
「景時の魔弾と私の万物の力、どっちか上かな?」
さんの持つ銃に力が込められるのがわかる。
そして、景時さんの銃にも・・・
「さん!景時さん!だめ、だめだよ・・・!!!」
「望美ちゃん、約束したよ?」
さんは笑ってた。
いつもの、余裕の微笑み。
たくさんの人を魅了する笑顔。
ダンッッ!!!
力のぶつかり合う音。
・・・違う。
景時さんは銃を構えた状態で立ってる。
「さん・・・!さん・・・・・・!!!」
目の前にあるのは・・・
血だらけになって、倒れている、さんの姿。
万物の力は・・・?
さんには万物の力があるんだよね・・・?
崖から落ちても大丈夫だったんだもんね。
五行の力が込められた銃の力なんて・・・簡単に効かないよね?
じゃあ、なんで、さんは私の目の前で倒れているの・・・・・・?
「神子様!」
「銀、離して!!」
さんに駆け寄ろうとする私を銀が止める。
どうして?
どうして止めるの・・・?
みんな、どうして、動こうとしないの?
「神子様、様のお言葉をお忘れですか?」
「え・・・?」
さんの、言葉・・・?
「みなを連れて鎌倉殿の元へ・・・」
「あ・・・」
「先を、急ぎましょう」
「でも、さんが・・・・・・!!」
目の前で倒れてるんだよ!!
銀だって・・・・・・さんのこと、想っているのに・・・!!
「神子様」
「・・・・・・」
銀の目が、真剣だ。
その目は私一人の我侭を許さないと言っているようだった。
「様の・・・お考えを無駄になさらないでください」
「・・・・・・」
無駄に、しちゃ、いけない・・・
そうだ、無駄にしちゃいけないんだ・・・
「景時さん、私たちは・・・先に進みます」
さんが作ってくれた道を無駄にしないためにも。
前に進む。
† 流れ行く大量の血、動かない身体 †
(・・・さんが死んだなんて信じられない・・・信じたくない。)
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