† 私では、彼を縛る足枷にはなれないの †
「ごめんね、銀」
「何故、謝られるのですか?」
「私があなたと出逢ってしまったから」
本当なら私じゃなくて銀に、重衡に逢わなくちゃいけなかったのは望美ちゃん。
優しい白龍の神子様。
私じゃあなたを助けてあげれないだろうから・・・
「様?」
「ごめんね・・・」
「そのような哀しい言の葉をどうか紡がないで」
私に哀しげな表情を向けてくる。
この表情をさせてしまっているのは間違いなく、私・・・
「銀?」
「様という存在が私には光のように思えます」
「私はそんなにすごい存在じゃないよ」
「それは様が思っていらっしゃるだけでしょう?」
「・・・・・・」
「皆様方を見ていればわかります」
「違うよ、銀。みんなにとっての光は望美ちゃんなの」
優しい白龍の神子様。
人を、大切な人失う痛みを知っている・・・
怨霊を封印することさえ出来る優しい女の子・・・
「わかりました、皆様方は関係ございません。ですが・・・私の光はあなたです」
「・・・・・・」
「私の存在が、遠き日の記憶があなたを苦しめてしまっているのでしたら・・・私の存在を消してしまっても構わない」
「嫌、それは絶対に嫌」
「・・・・・・」
「消えたりしないで、絶対に・・・」
「はい」
記憶がなくてもいいから・・・
消えるなんて言葉を紡がないで。
あなたが消えてしまって悲しむ人はいっぱいいるんだから・・・・・・
「望美ちゃんを守ってあげてね」
「はい、泰衡様より神子様をお守りいたしますことはご命令いただいております」
「そっか、そうだよね・・・」
「私は様もお守りいたします」
「え?」
「あなたをお守りいたしますことは泰衡様のご命令ではございません」
「・・・・・・」
「私にもあなたを守らせていただけないでしょうか?」
「じゃあ私にもあなたを守らせてくれる?」
「・・・・・・」
「守られてるだけは嫌なの」
出来ることなら私も守りたいよ。
望美ちゃんのように、みんなを守りたい。
「様はお強いですね」
「強くなんてないよ」
「強く、とてもお美しい方です」
「強くて美しいのは望美ちゃんだよ、白龍の神子様」
「確かに神子様も強く美しい方ですが・・・私にはあなたが一番愛しいと思えます」
「・・・・・・」
「そろそろ戻りましょうか」
「うん・・・」
「銀」
「泰衡様」
「そちらは確か・・・」
「様でございます、泰衡様」
「そうか・・・」
「泰衡様、様をお送りして参ります」
「・・・・・・」
「銀、いいよ。私は一人でも帰れるから」
毎日のように、この平泉を案内してもらったから・・・このあたりの地理は大体覚えた。
だから大丈夫、ちゃんと帰れる、一人でも・・・
それに、泰衡が声をかけるということは銀に用事があるということだから。
「いけません、お一人でお帰りになられるなど・・・」
「大丈夫だよ、私は望美ちゃんみたいに尊き存在でもないんだから」
「銀、お送りしろ」
「はい、泰衡様」
「でも、泰衡は銀に用でしょう?」
「・・・・・・」
「銀、あなたの主は泰衡でしょう?」
「はい」
「じゃあ主の御用を一番に考えていいんだよ」
「・・・・・・」
「銀、俺の用はあとでも構わない。お前の好きにするがいい」
「ありがとうございます、泰衡様」
「殿にこの平泉を案内して差し上げろ」
「はい」
十分案内してもらったような気もするけど・・・
まぁいっか。
でも、どうして泰衡はそんなことを言ってくるのだろうか・・・
「では、殿、お気をつけて」
「ありがとうね、泰衡」
「銀」
「はい」
「お前が俺に意思を示したのは、初めてだな・・・」
「・・・・・・申し訳ございません」
「これくらいことは別に構わないさ。殿、機会があれば伽羅御所にも来て頂けると有難い」
「あっはい」
「殿のお好きな時に来るがよい。その際は銀、お前がお連れしろ」
「はっ畏まりました」
泰衡とはちゃんと話をしたいと思う。
鎌倉との争いになる前に・・・
銀が御館を殺そうとする前に・・・・・・
もうそうなったらいっそのこと・・・みんなで鎌倉を攻めてモンゴルに行っちゃうのも悪くないかも・・・
それもひとつの策としておこう。
「では様、高館までお送りいたします」
「うん、お願いします」
◇◇◇
「送ってくれてありがとうね、銀」
「いえ・・・あなたをお守りするとお約束いたしましたから・・・」
「それは泰衡の命令だから?」
「・・・違います」
「そっか、ありがと。気をつけて帰ってね」
「はい。御前を失礼致します」
† 私では、彼を縛る足枷にはなれないの †
(泰衡様も・・・様のことを・・・お想いでいらっしゃるのでしょうか・・・)
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