† もどかしい気持ちがどうしようもなく内側から膨らんで †










「望美ちゃんー?大丈夫ー?」


「う・・・ん・・・まだちょっとだるい感じです」


「望美ちゃんの気は清らかなものだからね」




しかも、近くにはまだ気付いてもいない呪詛の種もある。

まだ・・・強い呪詛は発していないのだろうけれども・・・

少なからず呪詛を発しているのは確かだろうから。




「今日もゆっくり休んでる?」


「・・・そうさせてもらおうかな・・・」


「大丈夫だよ、望美ちゃん」


さん・・・」


「ゆっくり休んで、何か果物でも買ってきてあげるね」


「ありがとうございます」


「失礼します」


「あっ銀さん」


「神子様、銀とお呼び下さい」


「え、でも・・・」




困っている望美ちゃん。

そりゃそうだよね・・・銀は見るまでに年上だし。

でも、知盛のことは呼び捨てにしてるけど・・・




「銀、無理に強要しないの」


「しかし・・・」


「望美ちゃん、銀はなかなか引いてくれないよーこのことに関しては」


「・・・さんー」


「望美ちゃん、呼んであげれば?銀って」


「でも、銀さん年上だし・・・」


「あはは、じゃあ私はどうなっちゃうのかな?」




ほとんどみんな年上だけど呼び捨てにちちゃってるし。

九郎とか景時とか弁慶とか知盛とか泰衡もだね・・・




「あっそっか・・・じゃあ銀って呼ばせてもらいますね」


「はい」


「それで銀、今日はどうしたの?」


「泰衡様に神子様の様子を見てくるように言われました」


「そっか・・・望美ちゃんは今日もここでゆっくりさせてあげたいんだけど・・・問題ある?」


「いえ、ございません」


「だって。よかったね、望美ちゃん」


「はい」


「銀は今から時間あるの?」


「泰衡様にご報告するのみです」


「じゃあちょっと付き合ってくれる?」


「はい、お付き合いいたします」




うわぁ・・・即答。

考えるとかしないんだよね・・・この人は。

心が凍ってしまっているから・・・・・・

忘れてしまっているから・・・

哀しい運命の上に立ってしまっている人だから・・・




「望美ちゃんに美味しい果物を食べさせてあげたいの」


「それでしたら市の方へお連れいたします」


「本当?助かるー。じゃあ望美ちゃん、ちょっと行って来るね?」




銀がいれば目的の場所まで一直線に行けるだろうし・・・

一人で行くよりはいいし・・・

それに・・・何か話が出来るかもしれない。

出来ればたくさん、話はしたいんだよね・・・




「行ってらっしゃい!でも、気をつけてくださいね!」




















◇◇◇




















「あっこれ美味しそうだね」


「はい」


「もう・・・はい、以外に言うことはー?」


「・・・・・・」


「望美ちゃんが食べるんだよー美味しいもの選んであげたいの」


「・・・・・・」


「ねっ、銀のお奨めは?」




様の言動ひとつひとつに翻弄される自分がいる。

今までこのような経験はしたことが・・・おそらくなかっただろう。




「私は・・・これは好きです」


「銀のお奨め?」


「・・・はい」


「じゃあこれにしよー」


「宜しいのですか?」


「うん、だって銀が選んだものだし。私たちよりも銀のほうがここのこと知ってるでしょ?」


「はい」


「だからね、これに決定」




微笑まれる様。

その頬に触れてみたい。

優しい御手にもう一度触れたい。

何故、このような想いが生まれるのでしょうか・・・・・・




「銀?どうしたの?」


「いえ・・・」


「辛い?」


「いえ・・・そのようなことは・・・寧ろ、私は幸せすぎるのです」


「幸せ?」


「はい」


「・・・どうして?」


様が近くにいてくださるからです」




触れることさえ出来る距離。

私に向けられる微笑み。

それが、私の至福・・・




「もう・・・」


「そちらのお荷物、お持ちいたします」


「あっいいよ、重くないし」


「あなたの御手を煩わせたくはないのです」


「わかった、じゃあお願いね」


「はい」




もし、その手に触れれば・・・あなたをお怒りになるのでしょうか。

それとも・・・笑って手を握り返してくださるのでしょうか・・・




「ん?どうしたの?」


「御手に・・・」


「手に?」


「触れても・・・宜しいでしょうか?」




言ってしまった言葉。

紡いでしまった言の葉を取り戻すことは出来ない。




「いいよ、どうぞ」


様・・・」


「手でしょ?どうぞどうぞ、私の手でよければ好きなだけ触っちゃっていいよ」


「ありがとうございます」




先日触れさせていただいた時とも変わらない。

お優しい、あたたかな御手。




「でも、どうしたの?何か不安なことでも・・・ある?」


「いえ・・・ただ、あなたに触れたかった、それだけなのです」


「銀・・・」










† もどかしい気持ちがどうしようもなく内側から膨らんで †

(ただ、あなたに触れたいと思うことは罪なのでしょうね・・・)



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