† 桜は咲き誇り やがて散っていく †
「本当に、すっごく綺麗!!」
月から舞い降りた桜月の君は・・・
可愛らしい姫君。
鈴音のような声色。
「すごく綺麗だね」
「えぇ・・・しかし、やはり月や桜よりも・・・桜月の君が一番輝かしい」
まるで月を纏うよう・・・
「な、な・・・っ」
「お可愛らしい姫君ですね」
頬を朱に染める姿はまるで色づく桜花の花びら。
白き中に浮かぶ美しい花。
「ね、ねぇ・・・私の名前教えたら覚えていてくれる?」
「姫君の名をお聞かせいただけるのですか?」
「・・・覚えていてくれると約束してくれるなら、教えてあげる」
「お約束いたしましょう」
「私は、って言うの」
「・・・、美しい名ですね」
美しい姿に負けることのない、美しい名。
そう、まるで桜月の君のためだけにあるような・・・とても美しい名。
「そ、そんなことないよー!」
「いいえ、ご謙遜なされることはありませんよ」
「・・・・・・」
「可愛らしい方ですね」
「もう・・・やっぱりストレートだよ・・・」
「すとれーと・・・ですか?」
「あっごめん、気にしないで!」
「そんな風に言われてしまうと・・・余計に気になってしまいますね」
「うぅ・・・」
「ふふ、少し意地悪をしてしまったようですね」
「忘れないでね、私のこと」
「忘れませんよ、桜月の君」
「本当に、本当に忘れないでね・・・」
「忘れません、お約束いたしましたでしょう?」
「そうだけど・・・」
「・・・桜月の君?」
「私は運命を知っているの」
「運命・・・ですか」
本当に不思議なことを仰る・・・
運命を知るものなどいるはずがないのに・・・
「絶対に、あなたとはもう一度逢うことになる」
「つまり・・・これが一度きりの逢瀬ではないということでしょうか?」
「うん、そうだけど・・・」
「何かまだあるようですね」
「あなたは私を忘れてしまう」
「・・・それは、定められた運命・・・なのですか?」
「うん、きっと・・・変えることの出来ない運命」
「あなたが仰るのでしたら・・・本当なのでしょうね」
「私に出来るなら変えたいの、変えたいのに・・・!!」
「桜月の君、落ち着きください」
「・・・ごめんね・・・」
「泣かないで下さい、桜月の君」
「ごめんね・・・重衡・・・」
「泣かないで、愛しい人」
「重・・・衡・・・?」
「あなたの涙を見ると私は・・・心が締め付けられるのです」
「・・・・・・」
「だから、どうか泣かないで」
「・・・ごめんね、うん、泣かない」
「よかった、やはりあなたには笑顔がよく似合う」
「・・・重衡」
「桜月の君・・・」
「なぁに?」
「お手をどうぞ」
「え?」
「桜の下へまで行きませんか?」
「あっ行きたい。いいの?」
「えぇ、構いませんよ」
「嬉しいな・・・」
「あぁ、でも・・・桜月の君は天に帰ってしまわれるかもしれませんね・・・」
「え?」
「どうか、この手を離さないで下さい」
<我が姫、これ以上は―――>
「・・・え?」
「桜月の姫?!」
「またね、重衡」
「桜月の姫・・・」
「忘れないでね、私のこと・・・忘れないでね!!」
◇◇◇
「桜月の君・・・」
「重衡?」
「兄上・・・」
「どこかの姫君と逢瀬か?」
「えぇ・・・桜を照らす月の精と・・・」
「クッ月の精か・・・」
◇◇◇
「・・・あ、戻ってきたんだ」
ここは六波羅。
平家がいた頃のではなく、草臥れてしまった・・・
「また、逢えるよね・・・?」
約束したから。
忘れないって・・・約束したから。
それが真実になるとは限らないけど・・・
忘れてしまう可能性のほうが、高いけど・・・
「さて、邸に帰ろうかな」
運命の環。
きっとあなたとも繋がっているはずだから・・・
† 桜は咲き誇り やがて散っていく †
(もう一度出逢うそのときまで、さよなら。)
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