† 運命の桜 †
「六波羅・・・か」
誰もいない、ただ沈黙が広がる世界。
夜。
それは全てのものの安らぎの時間だから・・・
「望美ちゃんなら逢えるのかな・・・」
あの人に。
辛い運命の中にいるあの人に。
「・・・・・・私も逢いたいな・・・」
逢えることなら逢いたいの。
過去の平家の邸。
平重衡。
”我が姫、その願い叶えよう―――”
「え?」
風が吹き、花びらが舞う。
ここにはない、桜花の花びらが・・・・・・
◇◇◇
「月の精が舞い降りてきたようですね」
「え・・・?」
嘘・・・
この声はもしかして・・・もしかしなくても銀?
本当に来れちゃったわけ?!
「銀、なの?」
「銀ですか・・・では私はあなたを何とお呼び致しましょうか・・・」
違う、違わないけど、違う。
彼は・・・平重衡。
ここでは平重衡のはず、平知盛の弟の・・・
興福寺や東大寺の焼き討ちをしたと言われている平重衡。
最も、私にはあの出来事は偶然に見えてしまったのだけど・・・
「私の呼び名はあなたがつけて。あっ十六夜はダメだよ」
十六夜の君は望美ちゃんのためにある呼び名。
望美ちゃんじゃない私が呼ばれていいはずがない。
「では・・・桜月の君とお呼び致しましょう」
「桜月?」
「桜月とは弥生の別名、桜を照らす月から来た、かぐやの姫にはよくお似合いでしょう」
「ねぇ・・・重衡」
「・・・私の名をご存知でしたか」
「うん、知ってるよ」
あなたのことも・・・
あなたの運命も知ってるよ。
「銀というのは?」
「それもまた、あなたの名前」
泰衡があなたに付ける名前。
呪詛の種となって現れる・・・あなたの・・・もうひとつの名前。
「不思議なことを仰いますね、桜月の君は」
「ねぇ、御簾越しに言の葉をっていうのは雅で素敵だと思うけど・・・私はあなたの顔が見たい」
「・・・・・・積極的な姫君ですね」
「いけない?」
「ふふ、構いませんよ。こちらにどうぞ、月と桜と・・・美しい重なりが見えますよ」
「ありがとう」
少し御簾を上げ月の席に招いてくれる彼。
ここはまだ、栄華を誇っていた時の平家の六波羅・・・・・・
† 運命の桜 †
(・・・・・・本当は全てを伝えてしまいたい。けど、できない。)
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