† 幸運が何かと問われても、明確な答えはない †
「行くの?」
「はい、明日の明朝に・・・」
「そう・・・」
重衡は行ってしまう。
南都、制圧。
この運命は・・・起こしてはいけない。
私なら、今なら止めることが出来る・・・出来る。
でも、止めることが怖いと思ってしまっている。
「重衡、ごめんね」
運命を変えることが怖い。
変えれば幸せに過ごせるのかもしれない。
少なくとも、重衡は傷つかなくて、苦しまなくてすむのかもしれない。
「本当に、ごめんなさい」
言えない。
本能がそう叫ぶ。
怖い、怖い、怖い。
もし、ここで彼に全てを告げてしまったら・・・
大幅に運命が変わる。
私の知らない未来になる。
「重衡、好きよ。大好きよ」
運命を変えることができるのは白龍の神子様。
そんなの、知ってる。
私じゃ・・・運命を変えることなんてできないんだって思わされた。
どんなに大好きでも・・・
どんなに愛しく思っていても・・・
「姫君、どうか泣かないで下さい」
「・・・・・・っ」
伝う涙。
私の瞳から流れ落ちる涙。
その涙を重衡の唇が拭う。
「あなたの涙を止める術を私はこれ以外の行為を思いつくことはできませんでした」
「重衡・・・」
「、どうか泣かないで」
「・・・・・・嫌、いやよ」
「困った姫君ですね」
「そう、困らせるの」
「姫君に困らされることを私はとても嬉しく思いますよ」
あなたを苦しめたくない。
でも、私の知っている運命通りに今は進むしかない。
この運命から外れない限り、重衡は生き続けることができる。
南都制圧の後も、生きている。
だから、まだ、運命を変えてはいけない・・・・
あなたが生きる、その未来がいいから・・・
自分勝手だと思う、本当に。
でも・・・大切だから、愛しているから。
私の我侭をどうか、許してください。
「明日、ちゃんと見送りするからね」
「ありがとうございます、姫君・・・」
「じゃあ、明朝に」
「えぇ」
「ちゃんと起きて、行ってらっしゃいって言うから」
「はい。どうか、明朝にもその可愛らしい笑顔を私に与えてください」
笑顔で言うわ、行ってらっしゃいって。
ちゃんと私の元に帰ってきてね、って。
重衡のこと大好きよ、って。
すごく、すごく愛してる、って・・・・・・
† 幸運が何かと問われても、明確な答えはない †
(愛してる・・・ごめんね。)
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