† お前は、痛いほど真っ直ぐな瞳を俺へと向けて †
〜♪
「・・・あ、」
「お」
「・・・金澤センセが歌ってるの初めて聴いた」
「ははっだろうな」
「歌って」
「あのなぁー」
「私、金澤センセの歌聴きたい」
「俺の拙い歌なんて聴いても仕方ないだろ。昔ならともかく」
「私は、今の金澤センセの歌が聴きたいの」
真っ直ぐな瞳。
俺はのこの瞳が気に入ってる。
ははっ・・・そりゃ敵わないわな。
「・・・・・・少し待ってくれ」
「え?」
「大人は色々と厄介なんだ」
「ん、わかった。待ってる」
「待たせる代わりに今はジュースでも奢ってやろう」
「あ、じゃー音楽準備室にアイス置いてくださーい」
「は?」
「だってカフェテリアのアイスは音楽準備室まで持ってこれないし」
「まぁ・・・仕方ないか。冷凍室は空いてるから好きなように使っていいぞー」
「やった」
てか、コイツって結構我侭だよなー。
自分の欲望に忠実というか、なんと言うか・・・
「なるほど。確かに、かぐや姫だなぁー」
「え、金澤センセまでそんなこと言いますかー?!」
「あんまり男を翻弄しすぎるなよー」
「してないですって」
いや、してるだろ。
近しい面々も数多く。
特に俺としてはあの吉羅までに翻弄されて驚いたんだぞ。
まぁ、いい傾向ではあるのだろうが・・・
それにアレだな、柚木に土浦、ついでに加地。
アイツらもまぁ見事に音に現れてる。
だか、当の本人は気づいているのか気づかないフリをしているのか。
「まぁ何かあったら来いや。話くらいなら聞いてやるからさ」
俺としては、この瞳を曇らせたくはない。
真っ直ぐで、無邪気なこの瞳を気に入っているから。
もっとも、それはアイツらのような恋ではないけど。
どちらかといえば、憧れに近い感情。
今の俺にはないもの。
「金澤センセの言ってることよくわかんないけど、アイス置いてくれるならいつでも行きまーす」
あとは・・・まぁ、初恋の思い出ってやつだ。
本当に、親子揃ってそっくりだな。
顔だけじゃない、無邪気に男を翻弄する姿も。
だからこそ、俺はには敵わない。
「金澤センセ、一つ謝らせて」
「は?」
「金澤センセの歌、初めて聴いたって嘘です。ごめんなさい」
「・・・どういうことだ?」
「うちの母親が金澤センセのCD持ってたから聴いたことあるの。だから、ごめんなさい」
「おいおい、マジか・・・」
「マジ。昔から私は金澤センセの歌聴いてたんです、ママに聴かされて」
「、何も言わずにそのCD処分してくれや」
「え、ヤダ。てか、ママがそれを許さない」
「は?」
「ずっと言ってたんです。高校時代の後輩ですっごい歌が大好きな人がいたって、自分はその人の歌を応援し続けたいって」
あぁ・・・
全く、親子揃ってどうかしてる。
だが、それが嬉しいって思うなんて・・・俺もまだまだってことか。
「私も応援したいって思ってるんです、その人のこと」
「・・・こんな拙い歌でもか?」
「言ったでしょ?私は今の金澤センセの歌が聴きたいんですって」
「・・・ま、俺ももう一度頑張ってみる。自分が納得できるようになったら聴いてやってくれや」
「はーい。じゃあ、ママにもそう伝えておきまーす」
「おいおい、そんなこと一言も言ってないだろー。お、ちょーどいいところに!吉羅!」
「なんですか?金澤さん」
「こいつ引き取ってくれ」
「は?」
「え、なんですか、そのモノ発言」
「美味い紅茶でも淹れてやってくれや」
「あっ吉羅サンの紅茶飲む飲む」
「わかりました・・・金澤さんも一緒にどうですか?」
「いや、やめとく」
「えぇー金澤センセも来ればいいのに」
「俺だって忙しいんだぞー」
吉羅との組み合わせには勝てそうにもない。
どちらも・・・俺に音楽の道を諦めさせない。
それが今はとても心地いい。
† お前は、痛いほど真っ直ぐな瞳を俺へと向けて †
(俺はずっと・・・歌いたい、歌い続けたいって思ってるんだな。)
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