† あの思い出に、俺は支えられていた †
「あっキラキラ変奏曲だ。楽譜貸して楽譜」
「は?」
「ほら、キラキラ変奏曲だし、お星様いっぱいー」
「お前なぁ・・・て、」
キラキラ変奏曲の文字の周りには大量の星。
・・・この星には見覚えがある。
・・・・・・あぁ、そうか。
偶然って怖いな・・・マジで。
実はあんな昔からコイツに惚れてた、なんて。
「歪な星だな」
「それを言うなー。星って描くの難しいんだよー」
「でも・・・俺は好きだぜ。この星が」
「え?」
「ほら」
「うわぁー・・・懐かしい。てか、つっちー物持ちいいね」
「まぁな」
俺がガキのころ、一度だけ出たコンクールのときにコイツが渡してきたのは・・・
紙に描いた星。
俺の楽譜に描かれた歪な星と同じ。
「しかし、私も成長しないなぁー。昔と星の変化が見られない」
「・・・てか、お前ってズルイよな」
「へ?」
「自然に俺の記憶に介入してくるし」
まさか、あの時の・・・
一目惚れした奴が、コイツだ、なんてな・・・
「は?」
「まぁ・・・それも悪くないけどな」
結局のところ、俺は今のコイツにも惚れてるらしい。
・・・気づくのが遅すぎたっていうのが本音。
「つっちー?」
気づいてしまえば呆気ないもので、
上目遣いに見つめてくる姿も可愛いなんて柄にもなく俺が思ってる。
「あー」
「うわっちょっと!そんな思いっきり髪ぐちゃぐちゃにしないでよー!」
「悪い悪い」
「あーもう、ぐちゃぐちゃ」
「・・・その鏡、壊れてねぇ?」
「あ、うん。立てれない」
「鏡か・・・」
「ん?」
「今週の土曜空いてるか?」
「へ?夜に蓮ママのコンサート行くけどそれまでなら大丈夫」
「ちょうどそのコンサート俺も行くんだ」
「え、そうなの?」
「月森がくれたんだよ、チケット」
「蓮が?」
「あぁ。ピアノを弾く身としては聴きたい音だからありがたくもらったんだけどな」
「それはわかるなぁー蓮の気持ちも。私も蓮ママのピアノ好き」
「じゃあ、昼くらいに待ち合わせしようぜ」
「うん。シンプルめなドレスで行っていい?」
「あぁ、俺もどうせ直接会場に行くつもりだから正装で行くしな」
「てか、なんで土曜日昼に待ち合わせ?返事したけどコンサートは夜からだよ」
「鏡買ってやるから買い物付き合えよ」
「へ?なんで鏡?」
「いや、壊れてるみたいだし。・・・まぁ、あれだ。この星の礼ってことで」
「んーなんかその歪な星とは雲泥の差が生まれちゃいそうだけど」
「いいんだって」
「んーまぁいっか、じゃあ可愛い鏡買ってね」
「あぁ。あ、一つ聞いていいか?」
「んー?」
「なんであの時、この楽譜に星書いたんだ?」
「多分だけど、一番だったよって伝えたかったんだと思うー。私はあの時のコンクール、つっちーの演奏が一番好きだったから」
「・・・そっか、サンキュ」
「あはっ全然お礼言われるようなことしてないってー」
惚れるのも仕方ないよな。
お前は俺の欲しい言葉をくれる。
お前は俺の指が魔法のようだとよく言うが、俺にとってはむしろお前の存在が魔法。
だけど、それだけじゃない。
欲しい言葉をくれるからお前を好きになったわけじゃない。
「・・・」
「んー?」
「・・・やっぱやめとく」
「えぇー?何よーそんなお預けされると気になるんだけど」
「またそのうちな」
「まぁつっちーがそう言うなら仕方ないね。そのうちを楽しみにしてる」
伝えてしまいたい、俺の想いを。
コイツを困らせたくない。
だけど裏腹に、困らせてやりたい。
こんなにも、俺の心を揺さぶりやがるから。
† あの思い出に、俺は支えられていた †
(まさか、あの時の初恋の相手がコイツで、またお前に恋してる・・・なんてな。)
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