† 何かがプツリと音をたてて切れた †
「さん!!」
「加地くん、いらっしゃーい」
「ホントに葵サンじゃん」
「・・・衛藤くん」
「やっぱり知り合い?」
「・・・うん、昔にね」
「ふーん」
「あぁ、葵サン。ヴァイオリン辞めたんだって?」
「・・・うん」
「賢明な判断じゃん」
「・・・・・・」
プチン。
・・・って、私の中の何かが切れた。
で、言葉よりまず手が出てた。
桐也のおでこにデコピンを一発。
「・・・いってぇぇぇ!!!何すんだよ!!」
「さん!」
「桐也!」
殴りかかろうとする桐也。
私を庇う加地くん。
桐也を止めようとする吉羅サン。
「どうしてそんな風に言うかな?」
「・・・・・・は?」
「音楽が好きで音楽を続けたらダメなの?」
「さん、落ち着いて」
「加地くん。私は落ち着いてるよ」
そう、落ち着いてる。
自分でもびっくりするくらい落ち着いてる。
落ち着いて、言葉を紡いで桐也を見てる。
「・・・・・・」
「私は音楽を早いうちに諦めちゃったから偉そうなこと言えないけど、私も音楽が好き」
「・・・・・・」
「加地くんのことはわかんないけど、加地くんの音色を聞いてたら音楽が好きな気持ちは伝わってくるよ」
「さん・・・」
「ねぇ、好きだけじゃダメなのかな」
「・・・それだから、伸びないんだよ。葵サンは」
「努力も技術も大事なんだと思う。けど、音楽が好きな気持ちも大事でしょ」
「・・・そんなことアンタに言われなくてもわかってるよ」
「あーそうだよねー」
そりゃそうだ。
多分・・・てか、絶対桐也も音楽が好きなんだってわかるし。
この人は努力してきたんだと思う、ホントに。
「・・・暁彦さん。俺、今日は帰るよ」
「・・・あぁ」
「衛藤くん!」
「・・・何?葵サン」
「僕、今ヴィオラやってるんだ」
「・・・・・・あっそ」
「ずっと憧れてたんだ、ヴィオラ」
「それで?」
「次のアンサンブルコンサート聴きに来て欲しいんだ、君にも」
「は?」
「もし、時間があったら是非」
「・・・まぁ考えておくよ」
「ありがとう」
◇◇◇
「大人気ないことしちゃったなぁー」
「いや、先ほどの発言は桐也が悪かった。加地くんもすまなかったね」
「いえ・・・」
「あぁー自己嫌悪。ごめんね、加地くん」
「え?」
「私、ちょっと加地くんに自分を重ねてた」
「・・・・・・」
「だから、桐也の発言にイラッとしちゃったみたい」
「さん・・・」
「あぁー今泣いてるの内緒にしてね」
情けないなぁ・・・ホント。
桐也に最後にちゃんとヴィオラのこと伝えた加地くんのほうがよっぽど落ち着いてた。
私はただ餓鬼みたいにキャンキャン叫んでただけ。
「・・・・・・」
「・・・飲みなさい。少しは落ち着くだろう」
「ありがと、吉羅サン」
ロイヤルミルクティーからは甘い香り。
心を落ち着かせてくれる甘い香り。
「・・・私、紅茶には砂糖は入れない派なんだけどなぁー」
「砂糖ではない、蜂蜜だ」
「あーなるほど。蜂蜜ならいっか・・・美味しい」
蜂蜜の優しい甘さが涙を誘う。
あぁーもう、人前で泣くとかありえない。
ついでにカナリの自己嫌悪。
「・・・さん」
「ん?」
「よかったら一曲聴いてくれないかな?」
「え?」
「今の君にこの曲を聴いてほしいんだ」
「・・・・・・うん、聴かせて」
〜♪
「・・・この曲」
「そう、あの時の・・・君に背中を押してもらって音楽を諦めないと決めたときの曲なんだ」
「・・・ありがとう」
「吉羅さん、突然のお耳汚しをすみませんでした」
「いや・・・いいヴィオラの音色だった」
「ありがとうございます」
† 何かがプツリと音をたてて切れた †
(あぁーもう、ホント私ってば餓鬼だ。一人で空回りする餓鬼だ。)
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