† 傷つけても傷つけても、身体は止まることを知らない †
「あ、さ・・・っ!?」
「ん?」
「何やってるの?!」
「え、あー・・・うん、気にしないで」
「・・・・・・」
まるで、何もなかったかのような顔で僕を見る。
日野さんが言わないと言っていたこと。
それが、きっと、これ、なんだね・・・
彼女の指から流れるのは血。
血が流れているのを気にも留めていないような、そんな表情で僕を見ている。
「ちょ、ちょっと、加地くん?!」
気がついたら、さんの腕を引っ張っていた。
彼女の言葉を待たずに。
「保健室、行くよ」
「いーよ。どうせいつものことだし」
放って置いてと言っているように聞こえる言葉。
その言葉に、一瞬憤るものを感じた。
でも、・・・それよりも、哀しかったんだ。
「さん!!」
「な、なに・・・?」
つい、争ってしまった声。
怯えたような瞳で僕を見る彼女。
ごめんね、怖がらせるつもりはなかったんだ。
「ごめん。・・・ちょっとそこで待ってて」
「え、あ・・・」
「あ、そうだ。コレでとりあえず傷口押さえておいてね」
「いや!大丈夫だから!!てか、加地くんのハンカチ汚れちゃうし!」
「別に汚れても良いから」
「血って落ちないんだよ!!!」
「うん、知ってるよ?」
「だったら・・・!!」
「うん」
先手必勝。
困ってるサンの手をとりハンカチで傷口を押さえる。
ちょっとずるいかな?
「あぁーーー!!!加地くんのハンカチがぁーーー!」
「じゃあ、傷口押さえて待っててね」
「あっちょっと!加地くん!!!」
◇◇◇
「土浦!月森!」
丁度いいところに立っていたのは土浦と月森。
相変わらず言い合いをしている雰囲気。
うん、でもその雰囲気壊してもいいよね?
だって、さんの一大事だし。
「加地?」
「どうかしたのか?」
「絆創膏持ってない?それか、包帯とか・・・」
「・・・か?」
「・・・うん」
「加地、絆創膏なら俺が持っている。・・・に渡してくれ」
「ありがとう!月森!」
「・・・加地、ついでに持って行けよ」
「え?」
「消毒液」
「・・・持ち歩いてるんだ」
「・・・仕方ないだろ、自分では持ち歩かないからな」
・・・だろうね。
さっき、血が出ていることにさえ気を留めない彼女を見ていてそう思った。
「・・・でも・・・言わないんだね、俺が行くって」
土浦ならそう言うと思ってた。
さんのことを大事に思っているから・・・
「お前が行かないなら俺が行く」
「・・・僕が行くよ」
「・・・頼んだぜ」
「うん。土浦、月森、ありがとう!」
◇◇◇
「さん!お待たせ!」
「あ・・・本当に帰ってきた」
「え?」
「・・・・・・なんでもない」
「はい、じゃあ指貸してね。消毒して絆創膏巻くから」
「これ、梁ちゃんの?」
「うん。消毒液は土浦、絆創膏は月森から」
「梁ちゃんはともかく、蓮も絆創膏持ってるんだ」
「僕も明日から持ち歩くよ」
「え?」
「いつでも絆創膏巻いてあげれるように」
「・・・・・・」
「ねぇ、さん」
あまりにも自然に彼女の名前を呼んでいた。
自分でも驚くくらい自然に。
「・・・名前・・・」
「駄目かな?」
「・・・駄目じゃない、けど・・・」
「じゃあ、さん。駄目だよ、自分を傷つけちゃ」
「ん、わかってる」
「・・・じゃあ」
「でもやめない」
僕が言葉を紡ごうとする前に、彼女の言葉に遮られる。
その瞳はとても強くて・・・綺麗で、
僕はこれ以上何も言えない。
でも、言わなきゃいけない。
「・・・わかった、でも、僕はさんが自分を傷つける度同じことを言うよ」
「うぅ・・・」
心底困った、って感じの彼女の顔。
ちょっとは反省したってことかな?
意地悪かもしれないけど・・・僕を心配させた罰だよ。
「さん、返事は?」
「・・・・・・わかった」
「よし!じゃあアイスクリーム食べに行こうか?」
「え?」
「今日の放課後、練習前にちょっとだけ抜け出して、ね?」
「・・・香穂ちゃんも一緒に?」
「うん、日野さんも一緒に」
「・・・行く、アイスクリーム、好き」
「・・・・・・っ!」
笑顔。
初めて見た時に心惹かれたもの。
あの時は日野さんに向けられていたものだった。
でも、今は・・・
自惚れかも知れない。
けれど、この笑顔は僕に向けられている笑顔・・・
「じゃあ教室戻ろうか?」
「ん」
「あ、その前に土浦にこれ返しに行かなくちゃ」
「私も梁ちゃんのところ、一緒に行く。辞書借りなきゃ」
「また辞書忘れたの?」
「辞書重いから嫌い。だから持たないことにしてるの」
確か、星奏は電子辞書禁止じゃなかったはず。
今度彼女にプレゼントしてみようかな。
一番軽そうで持ち歩きしやすそうな電子辞書を。
「あ、そうだ」
「ん?」
「ハンカチ、今度新しいの買って返すね」
「あ、別に気にしなくて良いよ」
「でも、なんとなく私が嫌」
「・・・そっか、じゃあ楽しみにしてるね」
「うん。頑張って選ぶからー!・・・あ、でも私のセンスに期待しないでね」
† 傷つけても傷つけても、身体は止まることを知らない †
(その笑顔が見られるなら僕はなんだってするよ。だから、もっとその笑顔を見せて。)
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