† 今君に触れれば、壊れてしまいそうだった †
「あーーー!」
「ん?」
「・・・、また増えてる」
「朝、梁ちゃんにも言われてーデコピンされたー」
私が気づくんだもん。
土浦くんが気づいてないはずないよね!
てか、デコピンって・・・
「ばんそーこ、巻かれたしー」
・・・絶対土浦くん、絆創膏持ち歩いてるよね。
すぐにの指に巻けるように・・・
まぁ、私も持ち歩いてるんだけど。
・・・多分、みんな一枚は持ってるよね。
「痛いでしょ?」
「痛いー」
、前に言ってた。
痛いけど、やめれないって。
痛いって思えるからまだマシなんだよーって笑いながら。
その時の笑顔がなんだかすごく切なかったのを今でも覚えてる。
そして、私はそのとき・・・それ以上何も言えなかった。
「日野さん、さん、おはよう」
「おはよう、加地くん」
「おはよー」
加地くんの目線の先にはの指。
確かに気になると思う。
昨日はなかった親指両方に巻かれた絆創膏。
「加地くんー宿題わかんないー教えて教えてー」
も、多分加地くんの目線に気づいてた。
だから、突然だけどわざとらしさを感じさせない発言。
こういう時本当に頭の回転速いんだよね、は。
そういえば、土浦くんが言ってたな・・・の頭はスーパーコンピュータなんだって。
「・・・古典?」
「ん、加地くん前の学校で習ったって言ってたし」
「うん、わかった。教えてあげる」
「香穂ちゃんはー?」
「あ、私も!」
「じゃあまず辞書出して」
「あー・・・辞書忘れた。借りてくるー」
「行ってらっしゃいー」
が辞書忘れるなんていつものこと。
毎回言ってるような気がするよ?
辞書忘れたーって。
で、土浦くんあたりに借りに行くのがいつものこと。
絶対土浦くんって自分が使う以外の教科の辞書も持ってるよね!
過保護だから。
◇◇◇
「ねぇ、日野さん」
「・・・何?」
「さんの指・・・」
「・・・私は答えないよ」
多分、誰も答えない。
はで何も言わないし。
みんな、自分の目で見て初めて知ったことだったから、尚更。
「・・・・・・」
「に直接聴いても答えてくれないと思うよ」
私も最初そうだったし。
巧くはぐらかされた。
「・・・・・・」
「を追い詰めたりはしないで、絶対に」
正直、加地くんが何を考えているかわからない。
悪い雰囲気がないのはわかる、けど。
わかるんだけど・・・やっぱりまだわからない部分が多い。
「・・・・・・日野さん。僕はさんを追い詰めたいわけじゃ・・・」
「うん、それは・・・わかってる」
「・・・ごめんね」
「え?」
「日野さんも本当にさんのこと大好きなんだね」
「うん、大好きだよ」
だっては私の大切な親友。
すごく大切で、守りたくて・・・
でも、本当は私のほうが守られてる・・・ずっと。
◇◇◇
「さん?」
「あー柚木サンだ、柚木サン」
「そんなに急いでどうしたの?」
「えっとねー辞書忘れたー困った困ったー」
「はぁ・・・どの辞書?」
「古典」
「・・・古典、何時間目?」
「1時間目、今すぐ必要。ないと困るー」
「・・・ほら」
「え?」
「貸してやるよ」
「やったっありがとーございます」
「・・・それより、その指」
「あー・・・はい」
「全く・・・昼休み、屋上に来い」
「ん?」
「消毒しなおしてやるから」
「はーい」
は自分で何もしない。
この傷の存在を知っている人間に甘える。
そして、甘やかされている。
もっとも、誰もがを甘やかしている自覚はある。
だが・・・甘やかさずにはいられない。
「あ。柚木サン、今日辞書使う?」
「5時間目だから、昼休み・・・忘れるなよ?」
「ん、努力するー?」
「はぁ・・・日野に連絡するぜ?」
「うぅー・・・柚木サン、ずるい」
「お前が悪い」
「・・・・・・」
は日野に連絡されることを嫌がる。
日野に心配をかけさせたくないらしい。
・・・これ以上は。
「まぁ、もしもの時は放課後でも良いよ」
「古典あるんでしょー」
「俺を誰だと思ってるわけ?」
「あーそうですよねー。うん、柚木サンだった」
「ほら・・・飴やるから。いい子で屋上に来るんだよ?」
「はぁーい。あ、香穂ちゃんの分も飴ちょーだい」
「はいはい、日野にもな」
「ありがと、柚木サン」
◇◇◇
「ただいまー」
「おかえりー」
「柚木サンに飴もらったー。はい、これ香穂ちゃんの分」
そう言っては私に飴を渡してくる。
なんだか高級そうな飴を・・・
さすが、柚木先輩。
「・・・」
「ん?」
「その辞書もしかして・・・」
「うん、柚木サンのー。なんか歩いてた、柚木サン。で、辞書借りた」
「さすが、怖いもの知らずだよねー」
私には絶対無理!
親衛隊が怖い!
柚木先輩のあの微笑が怖い!!
「んーん。私にも怖いものいっぱいーいっぱーいー」
「はぁ・・・」
「あ、加地くんーもう間に合わないー」
「書いておいたよ。僕の字になっちゃってごめんね」
「んーん。加地くん優しいーありがと」
・・・なんか、加地くんものこと甘やかしてるような気がするのは私だけ・・・?
いや、甘やかしたくなる気持ちもわかるけど。
雰囲気も悪いものじゃないんだよねぇ・・・
それこそ、どちらかというと・・・いい雰囲気。
† 今君に触れれば、壊れてしまいそうだった †
(でも、私は何も言わない。誰も、何も言わない。)
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