† その存在に魅入られた †










日野さんの音色に惹かれて星奏学院に転入してきた。

相変わらず、日野さんの音色は僕の耳をとらえて離さない。

でも、僕の心は・・・

同じクラスのさんの存在が僕の心をとらえて離さない。

まだ、一言二言、言葉を交わしただけの彼女が。




















◇◇◇





















!」


「なぁにー?香穂ちゃん」


「今日も練習聴いてくれるかな?」


「うん、聴くー」


「いつもありがと、


「私は香穂ちゃんのヴァイオリン大好きなんだからねー」




僕と同じことを想っている人。

さん。

日野さん曰く、親友らしい。

僕が彼女と話したのはほんの少し。

日常的な挨拶と日野さんの音が好きだという話だけ。




「日野さん、さん」


「あっ加地くん」


「おはよ」


「え?」


「まだ、加地くんにおはよう言ってなかったから、おはよ」


「そ、そっか。おはよう、さん」




今はもう放課後なんだけどね?

まぁ、彼女がそう言うならそれはそれで構わない。

でも、一つ気になること。

日野さんに向けていた笑顔が今はない。

僕に向けてくれた笑顔は多分、多くの人が騙される作り笑顔。




「ん」


「で、加地くん。どうしたの?」


「日野さんの練習、僕も聴いていいかな?」


「加地くんも練習あるんじゃ・・・」


「大丈夫!練習は家でしっかりやるよ。日野さんのヴァイオリンは学校でしか聴けないからね」


「・・・二人で練習すれば?私、邪魔なら帰るし」


がいなきゃ嫌だよ!それに・・・!」


「香穂ちゃん、しー」


「・・・ごめん、でも・・・私はにも聴いて欲しい」


「加地くん」


「何かな?」


「私、二人の練習聴いてていい?」


「う、うん!もちろん!・・・というか、僕が横から入っちゃってごめんね?」


「んーん。だって加地くんは香穂ちゃんのアンサンブルのメンバーでしょ?」


「あ、うん」


「だったら謝る必要ないよー。あ、香穂ちゃんどこで練習する?」


「うーん・・・やっぱり屋上かな。今日は天気もいいし」


「わかったー。私、飲み物買って行くね、香穂ちゃん何がいい?」


「あ、じゃーココア」


「りょーかい。加地くんは?」


「え?」


「飲み物いらない?」


「あ、・・・一緒に行くよ」


「いーよ。加地くんも香穂ちゃんと練習してて」


「でも・・・」


。加地くんに一緒に行ってもらったら?」


「・・・加地くん、いーの?」


「うん、もちろん」


「ありがと」


「じゃあ、私は先に屋上行ってるねー!」




















◇◇◇




















さんって本当に日野さんのことが大好きなんだね」


「ん、香穂ちゃん大好き。ヴァイオリン以上に香穂ちゃん自身が大好き」




日野さんのことが大好きという彼女の笑顔はホンモノだった。

ただ、その笑顔は僕に向けられているものではなくて、日野さんに向けられたもの。

その笑顔を僕に向けて欲しいなんて、我侭なことを考えてしまう。

あまりにも、日野さんに向けられたホンモノの笑顔が綺麗で可愛かったから。




「ココアと紅茶と・・・加地くんは?」


「え、あ・・・コーヒーかな」


「じゃあコーヒーも」


「300円ねー」


「はーい」


「あ、いいよ」


「え?」


「はい、これでお願いします」


「はい、ちょうどだね!」


「ありがとうございます」


「ありがとーございます・・・はい、加地くん」




さんが渡してくるのは200円。

自分と日野さんの分のお金。




「いいよ」


「でも、」


「じゃあ、こうしよう」


「え?」


「日野さんへはいつも素敵なヴァイオリンの音色を聴かせてくれるささやかな感謝の気持ち」




もっとも、100円の紙パックのジュースなんかではお返しもできないのだけど。

でも、きっとこの言葉で彼女は納得してくれるだろうから。




さんへはよろしくの意味をこめて・・・なんてどうかな?」


「・・・ありがと、加地くん」


「どういたしまして。そういえば、さんと日野さんって昔からの友達なの?」


「んーん。学院入ってからの友達」


「そうなんだ」


「・・・あ、加地くん」


「何かな?」


「お節介かもしれないんだけど・・・香穂ちゃん、今火原先輩と付き合ってるよ」


「え?」


「加地くんって香穂ちゃんのことが好きなんでしょ?」




・・・好きか?と聞かれれば好きなのかもしれない。

でも、彼女が言う好きとは何かが違う。

だって、二人が付き合っていることを聞いても火原さんに対して嫉妬の念なんて起こらないから。

僕が好きなのは日野さんの音色。

あの、ヴァイオリンの音色が好きなんだ。




さん」


「ん?」


「大丈夫だよ」


「何が?」


「僕は日野さんのヴァイオリンの音色に魅せられてはいるけど、日野さん自身に恋をしているわけじゃないんだ」


「・・・・・・」


「だから、大丈夫だよ」


「・・・そっか」


「本当に君は日野さんのことが好きなんだね」


「大好き」


「・・・に加地?」


「あ、梁ちゃんだー」


「久しぶりだね、土浦」


「いや、昨日も逢っただろ」


「そうだっけ?」


「はぁ・・・まぁいいけどな。それより、


「ん?」


「今日はどうするんだ?」


「屋上で香穂ちゃんと加地くんの練習聴く」


「帰りも日野と一緒か?」


「んーわかんない」


「日野と帰らないんだったら連絡しろよ」


「ん」


「・・・土浦とさんって仲良かったりする?」


「梁ちゃんとは幼馴染」


「家が隣なんだよ」




なるほど、ね。

通りで仲がいいはずだね。




「梁ちゃん梁ちゃん。お菓子持ってる?」


「ほら、クッキー。嫌いじゃないだろ?」


「ありがと。香穂ちゃんと食べるー」




日野さんに向けていた笑顔と同じ笑顔。

まぁ幼馴染って言ってたし当然かな?

・・・・・・僕は相当さんのことが気になるらしい。




「・・・・・・加地」


「何?」


「・・・いや、なんでもない」


「梁ちゃん今日はピアノの練習?」


「あぁ」


「そっかそっか。アンサンブルコンサート近いもんねー」


「日野の調子はどうだ?」


「んー順調?音に磨きがかかって繊細な音になってるよ」


「そっか」


「あ、梁ちゃん。そろそろ行くね、香穂ちゃん待ってるから」


「あぁ、気をつけろよな」


「ん」


「あー加地。のことよろしくな」


「え?」


。日野に合わせるならいつでも声かけろよって伝えておいてくれな」


「ん、クッキーありがと」




軽くさんの頭を撫でて歩き出す土浦。

なんていうか・・・お兄さんみたいだよね。

でも、土浦はきっとさんのことが好きなんだろうね。

一人の女性として。










† その存在に魅入られた †

(彼女が僕の心をつかんで離さない、それは、きっと・・・)



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