† 思い出して思い出して、どうか私を忘れないで †
「・・・本当に宜しかったのですか?」
「うん、あなたと話したかったから」
「そうですか・・・」
「やっぱり私のこと、覚えてないんだね」
「以前どこかでお逢いいたしましたでしょうか?」
「うん、逢ったよ。最も・・・あなたが記憶を失う前の話だけどね」
まだ、平家が六波羅に居を構えている頃。
あなたが呪詛の種になる前。
「・・・・・・」
「桜月の君、これでもダメ?」
最終手段。
これでもダメなら・・・長期戦決定。
「桜月の君・・・」
「あなたが私をそう呼んだの」
「・・・なるほど、桜を照らす月の精とはお前か・・・」
「知盛?」
「そいつは・・・重衡なのだろう?」
「うん、っていうかなんで知ってるわけ?」
「桜月の君を・・・か?」
「そう」
あの時は・・・知盛いなかったし。
話していたのは重衡とだけ。
他に誰かがいるって気もしなかった・・・
まぁ知盛だし、将だし、気配を消すことなんていくらでも出来るか。
「その男に聞いた・・・桜を照らす月の精と話をしていたとな・・・」
「「「・・・・・・」」」
「あっそうだ・・・自己紹介忘れてた」
「こんな時に思い出すことではないだろう・・・?」
「こんな時だから思い出すの!ねっねっ自己紹介させて?」
「えぇ・・・あなたのような可愛らしい姫君の名を知らないと言うのはとても残念なことですからね」
やっぱりストレートだよ・・・この人。
もう直球勝負って感じ。
「わ、私は、だよ」
「様・・・美しい名をお持ちですね」
「はい、知盛も」
「・・・俺もしなければならんのか?」
「そう、しなくちゃいけないの」
「・・・・・・平知盛だ」
あ・・・今さらだけど拙かった?
奥州藤原氏と平家の関係って微妙・・・?
まぁいっか。
源平合戦は終わっているのだから。
今から起こるのは・・・鎌倉と奥州の戦い。
「知盛様・・・ですか」
「」
「何?」
「俺はコイツを何と呼べばいい?」
「うーん・・・」
ずっと重衡って呼んでたんだよね・・・
いきなり銀は呼びにくいかな?
「知盛様、私は銀と申します」
「・・・そうか、別に名などどうでもいいさ」
「何それ・・・」
私に聞いてきたくせに・・・!!
どうでもいいなんて!!
「でも・・・やっぱりそっくりだなぁ・・・」
うんうん、将臣の言うとおりだね。
本当にそっくり。
この二人。
◇◇◇
「様、風が出て参りました。皆様のところにお戻り下さい」
「でも・・・」
私はどうしてこの方を覚えていないのでしょう。
桜月の君。
頭に浮かぶ月に照らされる桜。
そう、それはまるで様のような・・・
「哀しそうな顔をなさらないで下さい」
その顔をさせてしまっているのは間違いなく私なのに・・・
そのような言の葉を紡いでしまう。
「・・・・・・」
「・・・申し訳ございません、様」
「謝らないでよ」
「・・・・・・」
「別に銀が悪いんじゃないよ?」
「・・・・・・」
「悪いのはもっと別の人」
「様」
「ん?」
「風が冷たくなってきました、せめてこの衣を羽織っていて下さい」
「でも・・・銀は寒くないの?」
「あなたの華のような微笑を見れるのでしたら・・・寒くなどありません」
「・・・馬鹿っ」
頬をお染めになれる姿もまた可愛らしい・・・
頬を朱に染める姿はまるで色づく桜花の花びら。
白き中に浮かぶ美しい花。
本当に可愛らしい方ですね。
どうして忘れてしまっているのでしょう・・・この可愛らしい方のことを。
「でも・・・少し寒くなってきましたので・・・御手をお貸しいただけますか?」
「え?手?」
「はい、様の御手を貸していただけるのならこの寒さなど苦にもなりません」
「うーん・・・じゃあどうぞ」
そういって手を差し出してくれる可愛らしい姫君。
優しいあたたかな小さな手を持つ方。
この手の優しさを、あたたかさを・・・私は知っていたのでしょうか。
「ありがとうございます、様」
「銀と手を繋ぐなんて二回目」
「・・・・・・そうなのですか」
「一回目はね、月と桜が重なり合う時に・・・ね」
「・・・・・・」
その記憶がないことがもどかしい。
このように感じるのは初めてで・・・そう、今までに感じることのなかった感情。
まるで心の何かが溢れてくるような・・・
「あなたの手の優しさは、全然変わってないよ」
「様・・・」
「あのね、無理に思い出さなくていいよ」
「・・・・・・」
「でも、あなたが思い出したいって思うなら・・・思い出して」
† 思い出して思い出して、どうか私を忘れないで †
(でも、今は忘れているほうがあなたにとっては幸せかもしれない。)
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