† もう放れないぐらい、抱き締めて †
「・・・まだ、いる」
喧嘩別れをしてから約2時間。
別れたのは寮の前。
怒った私は、寮の中に。
千秋さんは・・・別れた寮の前に・・・
「入るぞ、」
「あ、ニア」
「ほぅ・・・まだ立っているとはなかなか健気な男だな、東金も」
「・・・・・・」
「あぁ、そうだ。もうすぐ雨が降るらしい」
「え?」
「私はそれだけ伝えておくとするよ」
「・・・ニアの意地悪」
わかってるなら、千秋さんにそう伝えてくれたらいいのに。
そうしたら・・・
千秋さんは帰るかもしれないのに。
「意地悪で結構」
「・・・・・・」
「。いつものお前はもっと素直なはずだぞ」
「・・・わかってるもん」
◇◇◇
「・・・風邪、引くよ」
雨に濡れることも厭わずに、寮の前に何時間も立ち続けている彼。
いったい、何を考えているのだろうか。
「・・・あぁ、やっと出てきたな」
「え?うわっ?!」
笑う千秋さんを見ていたら・・・
突然、腕をつかまれて、千秋さんのほうに引き寄せられる。
私は、千秋さんの腕の中。
「・・・もっと色気のある声は出せねぇのかよ」
「なっ」
「やっと出てきたな」
「・・・・・・」
「悪かった」
「え?」
「さっきのは俺が悪かった。だから、謝る。・・・すまなかった」
「・・・千秋さんが謝った・・・初めて」
「俺だって自分が悪いと思えば謝るさ」
「そ、そうだよね」
「やっと笑ったな」
「え?」
「正直、別れたときにお前の笑顔がなかったのが辛かった」
「・・・・・・」
「俺にここまで言わせるなんてたいした女だ」
「たいした女じゃなかったら千秋さんとは付き合えないと思う・・・」
「ははっ全くその通りだ。お前は俺を本気にさせた女だからな、音楽でも・・・一人の女としても」
† もう放れないぐらい、抱き締めて †
(どんなに喧嘩してもきっと私は彼の腕の中に戻ってくる。)
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