* 十六夜の宴 *
「お邪魔しまーす」
ここは和議のために京まで来た平家のみんなが滞在している邸。
明日、和議がなされる・・・筈。
最も・・・私の知っている和議は荼吉尼天と清盛によって簡単には成されないのだけど・・・
この和議を知っている私がいる、阻止することもできる・・・筈。
「・・・・・・あなたは・・・桜月の君なのですか?」
「重衡!」
「また逢えるとの約はこのことだったのですね」
「うーん・・・どうだろうね?」
本当はまた逢えるというのは重衡が重衡を忘れてしまったときのことだから・・・
正確にはハズレ。
でも、今のあなたは悲しい運命の中にいなくてすむから・・・
「ふふ、つれない姫君ですね」
「そんなことないよーでも、逢えて嬉しいよ」
「私も、また麗しの姫君にお逢いすることが出来て幸せです」
「・・・・・・」
「ずっと恋焦がれた桜月の姫君がようやく・・・私の手の届く場所に現れたのですから・・・」
私にとってはこの間の弥生の出来事。
でも、重衡にとっては・・・もっと前の、平家がまだ京に居を構えていた頃の弥生の出来事。
「あなたの御手に触れてもいいですか?」
「手?うん、どうぞ」
「あなたの手のあたたかさはあの十六夜の逢瀬の時と何も変わらないのですね」
「そう・・・なのかな?」
自分の手のあたたかさなんてわからない。
でも・・・
「重衡の手のあたたかさも何も変わらないよ」
「桜月の君・・・」
「重衡・・・月の精との逢瀬とは羨ましいものだな」
「兄上・・・わかっていらっしゃるのでしたら邪魔をしないで頂きたいものですね・・・」
「そうつれないことを言うなよ・・・」
「知盛?」
「桜月の君は兄上をご存知だったのですね」
「うん、知ってるよ」
「そうですか・・・戦場に似合わぬか弱い姫君が兄上をご存知とは・・・」
「か弱い?この女がか?」
「なに?か弱くないって言うの?!」
・・・私だって一応女なのにー!
か弱くないなんて酷い!
そりゃ・・・戦場に乗り込んだりもしちゃってたけど・・・
「・・・戦場で人の頬と抓る女のどこがか弱い?」
「・・・あれは、知盛が悪いんでしょ」
現れるなんて思っていないときに現れちゃうから。
「・・・・・・仲がよろしいのですね、桜月の君と兄上は・・・」
「クッ・・・余裕が無さそうだな、重衡」
「えぇ、まさか兄上が桜月の君をご存知とは思ってもおりませんでしたので」
「このような可笑しな女・・・一度逢えば忘れるはずがないであろう?」
「・・・可笑しな女って失礼じゃない?」
「そうですよ、兄上。このような可愛らしい姫君をそのようにお呼びになられるとは・・・」
「一応、誉めているんだぜ?」
「誉められてる気がしない・・・!」
「クッ・・・ならば・・・一目で我が心を奪った愛しの姫君・・・とでも言っておこうか」
「なっ?!///」
「なーにやってんだよ、知盛」
「あっ将臣」
「来てたんだな、」
「うん、みんなに逢えるかなぁーって思って」
「そっか、で、知盛。さっきの妙に甘い言葉は何だ?」
「そうだな・・・この女に求婚を・・・とでも言っておこうか」
「はぁ?お前何やってんだよマジで・・・重衡も止めろよな」
「還内府殿、私が兄上を止められると本気で思っていらっしゃいますか?」
「あー・・・まぁそうだよな」
「しかし、兄上が無理やりにも桜月の君を得ようとするのならばこの命をかけて兄上と剣を交えましょう」
「いや、とりあえず今は平和に行こうぜ?折角和議が結ばれるんだからさ」
「クッ・・・だが、お前も加わるだろう?この女を得るための戦ならば・・・」
「あー・・・そうだな、でも和議を成してからだぜ」
「俺は今すぐでもいいんだが?」
「ダメだ。帝や尼御前・・・非戦闘員のことも考えろよな」
「っていうか、戦を起こすなんてダメでしょ」
「別に源平合戦のような激しいのは起こらないって多分」
「桜月の君・・・物騒なことを仰る兄上たちは放って置いて少し外に出ませんか?」
「外?」
「ったく・・・重衡!抜け駆けするなよなーっていうか、お前が一番初めに言ったんだろ?物騒なこと」
「・・・姫君をお守りするために必要なことでしたので」
「・・・お前ら兄弟は手に負えねぇ・・・」
「最強の兄弟だもんねぇ・・・色んな意味で」
「だよな・・・」
「で、重衡ー外に何があるの?」
「えぇ、月が今日は隠れていないようですので・・・桜月の君をお連れしたいと思いまして」
「今日は・・・十六夜か」
「はい、美しき十六夜の夜です」
「そっか・・・じゃあみんなを呼んで和議の前の宴でもしちゃう?」
「クッ・・・呼ぶ必要はないみたいだぜ」
「え?」
「!」
「ヒノエ?」
「全く・・・お前は手強い姫君だね」
「本当に、ヒノエの言うとおりですよ」
「弁慶も・・・って言うか八葉全員集合?」
「・・・みたいだな」
「ー!私たちもちゃんといるんだよー!!」
「望美!朔!白龍も!わぁー本当に全員集合だね!」
「・・・・・・不機嫌そうだな、重衡」
「兄上もでしょう?」
「・・・まぁ、な」
「しかし・・・桜月の君はとても嬉しそうです」
「自分が傷つくよりも、他のものが傷つくことに心を痛める女だからな・・・」
「本当に・・・心清らかな姫君ですね」
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風颯様のサイトのお祝いに書かせて頂きました。
中途半端になってしまいましてすみません・・・・!!!
しかも、重衡と知盛しかほとんど登場していません・・・
風颯さん、リクエストありがとうございました。
すごく楽しく書かせていただきました!!!
遅くなってしまいましてすみません。
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