* 世の中に 恋てふ色は なけれども ふかく身にしむ 物にぞ有りける *
「姫様」
「何じゃ?」
「その・・・大変、申し難いことなのですが・・・」
「申し難い?」
「はぁ・・・」
「よい、話してみよ」
「しかし・・・」
「早よう言うのじゃ」
「お館様が、姫様の婚約者を・・・」
「何じゃと?」
婚約者とは・・・父上も面白いことを言ってくれる。
わらわを妻にとは・・・何処の物好きか、一度顔を拝んでみねばらなぬな。
「その物好きは館に来ておるのか?」
「はぁ、姫様にお目通りを・・・とのことです」
「では、こちらへ通すのじゃ」
「宜しいのですか?」
「良いぞ」
「わかりました、ではお連れ致します」
「・・・何故、そなたじゃ」
「婚約者にその言葉とはつれない姫君だ」
女房に連れられて現れたのは・・・
珍しいものではなく、見慣れたもの。
そう、物好きが多くいるはずもないか・・・
「婚約者と聞いておったのだ、もっと別の者が現れると思っていのたじゃ」
「私めではいけませんか?姫」
「似合わぬな、知盛」
「・・・・・・」
「別にいつもの口調で構わぬぞ」
貴族口調のこやつもなかなか面白味もあるが・・・
そろそろ飽きがきそうじゃ。
「さて、知盛」
「・・・何だ?」
「ほんにわらわと婚約致すつもりか?」
「あぁ、悪いか?」
「そうではない」
ただ、この男の本心はどうも見えぬ。
今までも数多の家柄のものがこやつと婚約を致そうとした。
・・・が、全てこの男は無碍に致した。
「わらわと婚約致してどうするつもりじゃ」
「別に・・・あぁ、重盛兄上に自慢でもするか」
「・・・ほんに、お前はようわからぬ」
「それはお前もであろう?」
「何?」
「俺にはお前がよくわからんさ・・・」
「「・・・・・・」」
「互いにようわからぬもの同士、というわけか」
「あぁ」
なかなか楽しいものかもしれぬな。
この者との婚約も。
わらわが飽きるか、知盛が飽きるか・・・
はたまた、どちらも飽きぬか・・・
「どちらが先に飽きるか楽しみじゃな」
「飽きる?」
「そうじゃ、まぁ・・・どちらも飽きぬかもしれぬがな」
「クッ・・・飽きさせないさ」
「ほう・・・自信があるようじゃな」
「まぁ、退屈はさせないさ」
「では、わらはも少しはお前を楽しませることを考えよう」
「俺は・・・お前が手に入ればそれでいいさ」
「ふふ、簡単に手に入れられるものではないぞ。わらわは」
知盛が言う、手に入れるという言葉は決して婚約という形ではないであろう。
簡単にこの者の手に落ちるのも楽しみがない。
「わかっている・・・さ」
「わらわもお前を手に入れるとしよう」
「何だと?」
「簡単にお前のものになるつもりはない、お前がわらわのものになるのも悪くはなかろう?」
「手強い姫君で」
「退屈せずにすみそうじゃろ?」
「あぁ」
「簡単に飽きられては些か詰まらぬからな」
世の中に 恋てふ色は なけれども ふかく身にしむ 物にぞ有りける
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彰月佑衛様からのリクエストで・・・
前回同様の主人公さんで、知盛、婚約者夢です。
婚約者・・・とのことでしたので、婚約者になるまでというか・・・そんな感じになりました。
今回は知盛一人で主人公さんのお相手なので・・・暴走?(汗)
私のイメージの知盛さん全開デス。(笑)
佑衛さん、リクエストありがとうございました。
世の中に 恋てふ色は なけれども ふかく身にしむ 物にぞ有りける (和泉式部)
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